「ITリテラシーゼロ」の介護現場にデジタルツールを導入する際の3つの鉄則
「ICTを導入したのに、現場から『逆に仕事が増えた』と言われた……」
この声、介護業界でよく聞きます。実際、ICTを導入した施設の約6割が「かえって業務負担が増えた」と感じているという民間調査データもあります(ヘルステクノロジー社調査、2022年)。
問題の本質は「ツール選び」ではありません。「人」と「順番」の問題です。この記事では、前職の教育機関でデジタル化を推進し人件費を60%削減した経験をもとに、ITリテラシーゼロの現場でも確実にICTを定着させる3つの鉄則をお伝えします。
この記事でわかること:
- 介護ICT導入が失敗に終わる根本的な理由
- 現場スタッフの抵抗を生まずにICTを定着させる3つの鉄則
- 2025年度の補助金制度の概要と活用の考え方
- 「最初の成功体験」の作り方(一次体験より)
【結論】介護ICT導入が失敗する本当の理由は「ツール選び」ではない
介護ICT導入が失敗する最大の原因はシンプルです。ツールを入れることを目的にして、人のマネジメントを後回しにしていること——これに尽きます。
ICT導入済み施設の6割が「業務負担が増えた」という現実
民間調査(ヘルステクノロジー社、2022年)によると、ICTツールを導入した介護施設のうち、約6割が「かえって業務負担が増えた」と感じていると回答しています。
なぜこうなるのか。よくあるパターンはこうです。
1. 補助金が使えるのでICTを導入する
2. 現場スタッフへのトレーニングは「マニュアルを配って終わり」
3. 慣れたやり方の方が速いので、紙とICTの二重入力が発生する
4. 「入れた意味がなかった」という結論になり、ツールが使われなくなる
ここで問題になっているのはシステムの優劣ではなく、導入の設計と順番です。
失敗の根本:人のマネジメントを後回しにしてツールを入れていること
厚生労働省の調査でも「ICT化が進まない理由」としてIT人材不足49.0%、苦手意識38.1%が上位に挙がっています(厚労省「介護現場におけるICTの利用促進」)。これは「いいツールを探せば解決する」問題ではなく、人をどう動かすかという組織マネジメントの問題です。
以下の3つの鉄則は、この「人の問題」に正面から向き合うためのものです。
鉄則1:「マニュアル不要」のUIを選ぶ(スマホの延長線で使えるもの)
ICT導入で最初に悩むのが「どのツールを選ぶか」ですが、選定基準は一つです。「マニュアルなしで始められるか」。これだけです。
ベテランスタッフが「スマホで孫の動画を見る」ならできる
「うちのスタッフはITが苦手で……」という声をよく聞きます。でも本当にそうでしょうか。
スマホでLINEを使い、YouTubeで動画を見て、写真を撮って家族に送っている——これができるなら、現代のICTツールはほぼ操作できます。問題は「苦手」ではなく、「見慣れないUI」と「失敗したらどうなるかわからない不安」です。
だから選定の第一条件は「スマホのLINEと同じ感覚で使えること」。複雑な設定画面や、英語のメニューが並ぶシステムは候補から外してください。
選定基準:新人が1人でセットアップできるか
私がICT選定時に必ず試すのが「入職初日の新人が、自分一人でセットアップできるか」という基準です。
新人がつまずくということは、ITに不慣れなベテランスタッフも確実につまずきます。逆に、新人が説明なしにセットアップできるツールは、現場に定着する可能性が高い。
無料トライアル期間中に、意図的に「説明なし」の状態でスタッフに触らせてみてください。そこで「あ、なんとなくわかった」という声が出るかどうかが、導入判断の分水嶺です。
鉄則2:一部の業務から「小さく」始める
「せっかく導入するなら全員一斉に始めよう」——この考え方が、ICT導入を失敗に追い込む最大の罠です。
全員同時移行は絶対にやってはいけない理由
全員が同時にツールを使い始めると、その施設でトップクラスに詳しい人が1人もいない状態になります。
何か問題が起きた時に誰も答えられない。「紙の方がまし」という声がリーダー格のベテランから出た瞬間、全体が崩壊します。そのリーダーが「使い方を知らない状態」で導入するのは、火薬庫に火をつけるようなものです。
介護事業所でのICT導入成功事例を見ると、まず1つのチーム・1つの業務から試験運用し、そこで「うまくいった」実績を作ってから横展開するというパターンが共通しています(kaisyuf.jp「ICT導入事例6選」)。
まず「記録→報告連絡」の1点突破で試す
おすすめの最初の1点突破は「介護記録」です。理由は3つあります。
1. 現場スタッフが毎日必ず触る業務であること
2. 紙との二重入力が発生しにくい(記録する場所がICTに一本化できる)
3. 改善効果(「書くのが速くなった」)を体感しやすい
記録から始め、徐々に申し送りや報告連絡に広げていく。この「1点突破→横展開」の順番が、定着率を大きく左右します。
鉄則3:「楽になった」という成功体験を最初に作る
ICT導入を成功させる本質は「技術」ではなく「最初の感情」です。
最初の2週間で「これ便利じゃん」を言わせる設計
ICT導入から最初の2週間が、定着するかどうかの正念場です。
この期間に、現場のスタッフが一人でも「あ、これ便利じゃん」と言う場面を意図的に作れるかどうか。一人でも言えば伝染します。全員が懐疑的だと、使用率がじわじわ下がっていきます。
具体的には「最初の2週間でどの機能を先に使ってもらうか」を設計することです。最も効果が出やすい機能(例:記録時間が明らかに短縮される機能)を最初に体験してもらい、それ以外の機能は「慣れてから」で構いません。
一気に全機能を使わせようとすると、覚えることが多くてパンクします。
ドローン校で人件費60%削減を達成した際のマネジメント手法(前職の教育機関での一次体験)
私が前職の教育機関(ドローン操縦士の養成スクール)でデジタル化を推進した時も、まったく同じ壁にぶつかりました。
インストラクターのほとんどはフライト経験者のベテラン。「記録はこれまで通り紙でいい」「入力の手間が増えるだけ」という声が出ました。
そこで私が取った手順はこうです。
1. 一番「困っていること」を聞いた: 「シフト調整の連絡が毎回LINEで混乱する」という声が最も多かった
2. そこだけをICTで解決した: シフト管理のツールを1つだけ試験導入した
3. 「電話もLINEも不要になった」という成功体験を全員で共有した: 最初に試した2人が「楽になった」と言い始めると、他のスタッフも自然に使い始めた
4. 次のステップは「試した2人」に提案させた: 管理職からの押しつけではなく、現場からの「やってみようよ」で進めた
私が伝えたいのは、「ICTは管理職が上から導入するものではなく、現場が『使いたい』と思うよう設計するもの」ということです。 人件費60%削減の実績は、ツールの優劣ではなく、「現場スタッフが自走し始めたこと」によってもたらされました。
この結果、業務の可視化・分業の最適化・不要な工数の削減が連鎖的に起き、最終的に人件費を大幅に圧縮することができました。介護現場でも、同じ設計思想は必ず機能します。
補助金も使える:2025年度ICT導入補助制度の概要
ICT導入のコストが心配な場合、国の補助制度を活用できる可能性があります。ただし、補助金はあくまで「導入コストの一部を下げる手段」であり、人のマネジメントを代替してはくれません。
補助金を使って導入したが「誰も使わない」という施設も少なくありません。補助金の申請前に、鉄則1〜3の設計ができているかを先に確認してください。
2本立ての補助制度
2025年度(令和7年度)現在、介護テクノロジー導入に活用できる主な制度は2本あります。
| 制度名 | 予算規模 | 概要 |
|---|---|---|
| 地域医療介護総合確保基金「介護テクノロジー導入支援事業」 | 約97億円 | 都道府県が窓口。介護ロボット・ICT機器の導入費用を助成 |
| 2024年度補正予算「介護テクノロジー導入・協働化等事業」 | 約200億円 | 事業者負担5〜80%を助成。記録・請求・情報共有の一体的ICT化を支援 |
出典:令和7年度 介護テクノロジー補助事業 都道府県実施状況(care-news.jp)
また、中小企業・小規模事業者向けのIT導入補助金(令和7年度継続)も介護事業所が対象となる場合があります(カイポケ「IT導入補助金2025」)。
申請窓口や補助率は都道府県・事業規模によって異なります。最新情報は各都道府県の公式サイトまたは厚生労働省のページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-ict.html)でご確認ください。
まとめ:システム導入は「ツール」ではなく「人」の問題
この記事でお伝えした3つの鉄則を整理します。
| 鉄則 | ポイント |
|---|---|
| 鉄則1:マニュアル不要のUIを選ぶ | 「新人が1人でセットアップできるか」が選定基準 |
| 鉄則2:小さく一点突破で始める | まず記録業務の1チームで試す。全員同時移行はしない |
| 鉄則3:最初の成功体験を設計する | 最初の2週間で「便利じゃん」の声を一人から作る |
ICT導入の成否を分けるのはツールの機能ではなく、現場スタッフの行動変容です。「ツールを選んで導入する」のではなく、「現場が使いたくなる体験を設計する」——この発想の転換が、すべての起点になります。
次のアクション:
1. 現在の業務で「一番困っていること」を現場スタッフに聞いてみる
2. その課題を解決できるツールを1つだけ選んで、1チームで試してみる
3. 補助金の活用を検討する場合は、都道府県の担当窓口に問い合わせる
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著者プロフィール(簡略版)
現在、重度訪問介護の夜勤専従ヘルパーとして勤務。要介護5の父の在宅介護をきっかけにこの業界へ。前職では教育機関でデジタル化・業務効率化を推進した経験を持つ。介護×DXの視点でリアルな現場情報を発信中。
※本記事の情報は執筆時点(2026年5月)のものです。制度・料金・補助金の内容は変更される場合があります。最新情報は厚生労働省または各都道府県の公式サイトでご確認ください。

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