障害福祉のサービスのなかで、「重度訪問介護」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
「重度の障害がある人が使えるヘルパー制度」というイメージは湧くものの、「具体的にどんな人が対象になるのか」「何時間くらい使えるのか」「普通のホームヘルパーと何が違うのか」といった詳細は、実際に利用を検討する段階にならないとなかなか見えてきません。
私は、現在、訪問介護事業所のヘルパーとして重度訪問介護に従事しながら、2027年に自分自身の重度訪問介護事業所の立ち上げを準備しています。また、2023年から要介護5の父を在宅で介護しており、介護福祉士実務者研修を受講中のあきです。
今回は「現場で支援を提供するヘルパー」と「家族介護者」という2つの視点から、重度訪問介護の制度の基本ルール、利用するための具体的な条件、そしてネットの解説記事には書かれていない「現場のリアルな実態」を徹底的に解説します。
この記事でわかること
- 重度訪問介護の基本的な概要と「長時間見守り」が必要とされる理由
- 利用するための明確な基準(障害支援区分・状態要件)
- 介護保険の訪問介護や、通常の居宅介護との決定的な違い
- 現役ヘルパーが明かす、重度訪問介護における「1日の仕事の流れ」
- 働く側から見た、この仕事ならではの「やりがいときつさ」
重度訪問介護とは?対象者と「長時間見守り」が必要とされる理由
重度訪問介護とは、障害者総合支援法に基づく「障害福祉サービス(給付サービス)」のひとつです。
重度の肢体不自由がある方や、知的障害・精神障害により行動上著しい困難がある方に対し、ヘルパーが自宅を訪問して、入浴、排泄、食事の介助から家事援助、さらには外出時の移動支援までを総合的かつ長時間にわたって提供するサービスです。
最大の特徴は、一般的な訪問介護のように「30分で入浴介助をして退出する」といったピンポイントの支援ではなく、「8時間」「12時間」「あるいは24時間体制」といった連続した長い時間の中で、見守りと介助を一貫して行う点にあります。
重度訪問介護を利用できる条件(対象者)
誰でも利用できるわけではなく、以下の厳しい基準を満たしている必要があります。
1. 障害支援区分
「障害支援区分4以上」であることが必須条件です。(※障害支援区分は1から6まであり、数字が大きいほど必要な支援の度合いが高くなります)
2. 障害の状態に関する要件
区分4以上に該当することに加え、以下の「肢体不自由」または「知的・精神障害」のいずれかの基準を満たす必要があります。
- 重度の肢体不自由がある方:
- 二肢(両手や両足など)以上に麻痺等の障害があること。
- 障害支援区分の認定調査項目のうち、「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のすべてに何らかの支援が必要と認定されていること。
- 重度の知的障害・精神障害がある方:
- 行動上著しい困難があると認められ、障害支援区分の調査項目のうち「行動関連項目(12項目)」の合計点数が10点以上であること。
これらの条件を満たし、市区町村から支給決定を受けることで、サービスを利用できます。
介護保険の訪問介護とは何が違う?決定的な3つの相違点
高齢者が使う「介護保険の訪問介護」や、同じ障害福祉の「居宅介護」と、重度訪問介護にはどのような違いがあるのでしょうか。決定的な違いは以下の3点です。
① 「見守り(待機時間)」がサービスに含まれること
通常の訪問介護や居宅介護は、基本的に「入浴介助」「調理」「掃除」など、ヘルパーが常に何らかの直接的な作業を行っている時間だけがサービスの対象です。
しかし、重度訪問介護では、利用者のそばに控えて様子を見守る「待機・見守り時間」自体がサービスに含まれます。人工呼吸器の管理が必要な方の異変への即時対応や、体位変換のタイミングを待つための待機、行動障害がある方の危険回避のための見守りなど、何もしないように見える時間も「命を守る支援」として認められているのです。
② 喀痰吸引などの「医療的ケア」の割合が高いこと
ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病や重度障害の方の現場では、喀痰吸引(たんの吸引)や経管栄養(胃ろう等)といった医療的ケアが日常的に必要となります。
重度訪問介護ヘルパーは、都道府県等の研修(喀痰吸引等研修)を修了し、「登録特定行為事業者」の計画のもとで、これらのケアを医師や看護師の指示に沿って安全に実施する役割を担っています。
③ 外出支援がシームレスに組み込まれていること
通常の居宅介護では「自宅内の介護」と「外出の移動支援」は別のサービス枠として契約を分ける必要がありますが、重度訪問介護は自宅でのケアから外出時の移動支援までを同じサービス時間の枠内で連続して行うことができます。これにより、シームレスで柔軟な生活設計が可能になります。
【実務スケジュール】現役ヘルパーが明かす重度訪問介護「1日のリアル」
では、実際に現場でヘルパーはどのように動いているのでしょうか。私が担当している「夜勤帯(約10時間)」のリアルなタイムスケジュールの一例をご紹介します。
夜勤専従ヘルパーの1日の流れ(例)
- 22:00 — サービス開始・引き継ぎ
- ご家族や日中ヘルパーから、その日の体調や食事量、水分摂取量などを引き継ぎます。
- 22:30 — イブニングケア
- 排泄介助、衣服の着替え、就寝に向けた口腔ケアや胃ろうの水分注入を行います。
- 23:00 — 就寝介助・ポジショニング
- ベッドへの移乗後、床ずれを防ぐためにクッション等を使い、本人が最も楽な姿勢を保てるよう調整(ポジショニング)をします。
- 23:30〜05:00 — 見守り・定期的なケア
- 定期的に(1〜2時間おきなど)体位変換や排泄の確認を行います。
- 人工呼吸器の数値に異常がないか、呼吸音は乱れていないかなどを静かに見守りつつ、必要に応じて喀痰吸引を実施します。
- 06:00 — モーニングケア
- 起床後の更衣、洗顔、口腔ケア、朝の水分注入や薬の準備、排泄介助を行います。
- 07:30 — 記録記入と片付け
- 1日の体調やケアの実施記録をタブレット等のシステムに入力します。
- 08:00 — サービス終了・引き継ぎ
- 日中のご家族や次のヘルパーに状態を引き継ぎ、業務終了です。
見守りの時間が長いため、一見すると「楽な仕事」と思われることもありますが、呼吸器のトラブルや痰の詰まりなどは一瞬の遅れが命に関わります。静かさの中に、常に高い緊張感を持って向き合っています。
利用者・家族が使い始めるための具体的な申請ステップ
重度訪問介護の利用を開始するまでの一般的な流れは以下の通りです。
1. 市役所・役場の福祉窓口へ相談
- 困っている状況を話し、重度訪問介護の申請を行いたい旨を伝えます。
2. 障害支援区分の認定調査
- 認定調査員が自宅を訪問し、本人の心身の状況を聞き取る「認定調査」が行われます。
3. 区分決定と支給決定
- 調査結果や医師の意見書をもとに審査が行われ、障害支援区分が決定。その後、サービスが必要な時間が「支給量」として決定され、受給者証が届きます。
4. 相談支援専門員によるプラン作成
- 相談支援専門員が本人や家族の意向を聞き取り、サービスをどう組み合わせるかの「サービス等利用計画」を作成します。
5. 事業所との契約・利用開始
- 重度訪問介護を提供している事業所を選び、契約を結んでサービスがスタートします。
実際のところはどうか?働く側から見た「やりがいと本当のきつさ」
新しくこの業界で働くことを考えている方に向けて、現役ヘルパーとしての本音をお伝えします。
本当のきつさ:密室での1対1という心理的距離感
施設介護のように多くのスタッフが周囲にいる環境とは異なり、利用者の自宅というプライベートな密室空間で、長時間1対1で過ごします。
そのため、利用者様やご家族との「相性」や「関係性の構築」が極めて重要になります。沈黙の時間が苦痛に感じられたり、利用者の細かなこだわりに対応することに最初のうちは精神的なプレッシャーを感じるヘルパーも多いです。
やりがいの深さ:その人の「自立した生活」の土台になれること
一般的に、施設介護では多数の利用者を支えるため、決められたスケジュールに沿った支援になりやすいと言われることもあります。しかし重度訪問介護は「その人の生活リズム」にヘルパーが合わせます。
「あなたのサポートがあるから、私はこの家で自分らしく暮らせる」と言っていただけたり、一緒に外出して社会参加の喜びを共有できたりしたときの喜びは、この仕事ならではの深いものがあります。
まとめ
重度訪問介護は、重度の障害があっても「住み慣れた地域で、自分のペースで自立して暮らす」ための無くてはならないインフラ制度です。
- 利用には「区分4以上」と詳細な要件を満たすことが必要。
- 「長時間見守り」や「医療的ケア」をシームレスに行えるのが最大の特徴。
- 1対1で深く関わるため、きつさもあるが、やりがいは非常に大きい。
利用者やご家族にとっては、相性の良い事業所や信頼できるヘルパーとの出会いが生活の質を左右します。また、働く側にとっては、1つの命とじっくり向き合う専門性を磨くことができる仕事です。
重度訪問介護と他の外出支援制度(移動支援や同行援護など)との違いについては、こちらの制度の地図の記事で詳しく解説しています。
未経験から重度訪問介護のヘルパーへ挑戦しようと考えている方は、こちらの未経験ガイドの記事や、夜勤のリアルな実態もあわせて読んでみてくださいね。


コメント